「60代から新築を検討しているのですが、やっぱり終の棲家として考えたほうがいいですか?」というご相談を、最近よくいただきます。

終の棲家というと、手すりをつけて、介護しやすい間取りにして、老後に備える。そんなイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。

実際の相談現場で私がお伝えしているのは、「最後に住む家」ではなく「最後まで最高に楽しく暮らす家」として考えましょう、ということです。この記事では、建ててしまうと後から変えられないけれど、必ず必要なものを5つのポイントに絞ってお話しします。

よくある「終の棲家」の考え方

昔と今の60代像の対比

60代からの家づくりでは、次のような考え方がよく語られます。

  • 介護への備え:手すりをつける、段差をなくす、動線を短くする。これはもちろん大事なことです。
  • 老後のために全部詰め込む:この先起こりそうなことを、今のうちに全部想定して家に入れておく。
  • 物を減らす:小さな家にして断捨離をする、収納は必要最低限にする。

ただ、手すりは必要になってからでも付けられます。壁の色やカーテンも、後からいくらでも変えられます。

一方で、家には建ててしまったら変えられないものがあります。今、家のことで困っている方の多くは、まさにここで困っています。だからこそ、60代からの家づくりでは「後から絶対に変えられないけれど、絶対に必要なもの」を間違えないことが大切です。

実際の相談でよくある「せっかくなら部屋を多めに」という悩み

使われない部屋が家を重くする

60代のご相談で多いのが、「せっかく建てるなら、子どもが帰ってきたときの部屋も用意したい」「孫が泊まりに来たらどうしよう」というお話です。

お気持ちはよく分かります。ただ、客間のように部屋を増やしていくと、ご夫婦2人なのに使っていない部屋がずっとある、という状態になりがちです。その部屋を掃除しなければいけませんし、固定資産税もかかります。傷んだら修理も必要です。

つまり、たまに使う日のために、毎日大きな家を維持することになります。これは30代の子育て中の考え方です。30代は子どもの荷物も増え、家の使い方が広がっていく時期ですが、60代は広がるより少しずつシンプルになっていく時期。ここが思い込みの正体です。

専門家として私が考える、60代からの家づくり5つのポイント

60代からの家づくり5つのポイント

1. 家を大きくしすぎない

60代からの毎日の生活は、そんなに派手ではありません。とても小さな範囲で完結させて、十分だと私は考えています。

大きな家は、どうしても寒くなりがちで、暖かくするのにもお金がかかります。部屋を「念のため」に増やすのは、慎重なほうがいいでしょう。

おすすめは、客間を1部屋つくるのではなく、普段は趣味の部屋として使い、人が来たときは泊まれるようにすることです。小屋裏のような空間でも構いません。問題は、広さではなく「人生をどう楽しむか」です。

2. 玄関までの段差をなくし、上下移動は暮らしに取り入れる

玄関の段差は合計40〜80cm

バリアフリーというと、家の中の数ミリの段差をなくす話になりがちです。もちろん大切ですが、私が一番大事だと考えているのは、外から帰ってきて家に上がるときの段差をゼロにすることです。

玄関ポーチで3〜4段上がり、靴を脱いでまた1〜2段上がる。合計すると、高さは40cmから80cmほどになります。建てた後にこの段差をなくそうとしても、ほぼできません。外の段差にはスロープが必要ですが、1/15といった勾配になると、思っている以上に距離が必要だからです。

これは車いすの方や杖をついている方だけの話ではなく、元気な方にとっても便利になる「ノーマライゼーション」の考え方です。建てる前に、車を降りて玄関まで、車いすだったらどうなるかを考えておくことをおすすめしています。

家の中の上下移動については、足腰がすでに大変な方は平屋がいいと思います。ただ、元気な方には、毎日ある程度の上下運動をおすすめしています。

わが家の話ですが、母が10年以上前に大腸がんの手術をして退院してきたとき、寝室が2階にありました。私は1階にベッドを運ぼうかと言ったのですが、母は「2階で寝ることがリハビリだ」と言って、階段を上り続けました。結果、回復はとても早かったです。

寝室を2階にすれば、階段の上り下りが自然に毎日の運動になります。トイレも2階にすれば、さらに効果的です。そのうえで、上れなくなったときのために、1階で全部できるようにしておくのは当然です。

3. 家中の温熱環境を安定させる

家の中の温度差とヒートショック

設備は必ず壊れるので、交換すれば済みます。しかし、家を暖かく保つ、暖かく暮らすという基本性能は、建ててから全部やり直すことができません。壁も天井も床も、屋根も基礎も関係します。やり直すとなれば、新築と同じことになってしまいます。

リビングだけ暖かく、トイレに行くために廊下へ出ると寒い。お風呂も寒い。夏は2階が暑く、電気代が気になってエアコンをなかなかつけられない。エアコンのタイマーが切れるたびに目が覚めてしまう。こうした我慢は、睡眠の質にも関わり、健康維持に大切な要素です。

私が大事だと思っているのは、「リビングは20℃あります」という数字ではなく、小さなエアコンをつけっぱなしで暮らせるかどうかです。そして、全部の部屋が同じ温度になること。各部屋に暖房器具をつければいい、とはなりません。電気代が気になって、結局使わなくなっていくからです。

一年中エアコンをつけっぱなしにしても電気代が気にならないレベルの断熱・気密にして、家全体の温熱環境を安定させる。寒いとか暑いとかのストレスがない状態が、基本だと考えています。

4. 家事の規模そのものを小さくする

家事を減らし体力を趣味へ

家事を楽にするには、キッチン・洗濯・収納を近くにまとめるのが基本です。これは30代でも同じです。

60代の違いは、家族が少ないことです。ご夫婦2人、あるいはお一人なら、家事そのものの規模を小さくできます。お弁当を作らないなら大きなキッチンは要りませんし、2人なら大きなダイニングより大きなテレビのほうがいいかもしれません。洗濯物を持って家の中を何十メートルも歩くのも大変です。洗濯機で洗ったらそのまま干せる距離にしておく。距離が短いほど、毎日が楽になります。

家事に使う体力と時間を減らして、その分を趣味や旅行、仕事など、好きなことに使う。家事をするための家ではなく、人生を楽しむための家です。

5. 収納はあえて巨大にする

好きなものが詰まった大収納

ここは、世間で言われていることと逆の考え方かもしれません。60代になったら物を減らしましょう、断捨離しましょう、とよく言われます。でも私は、小さな家でも収納は大きくつくるべきだと考えています。

好きな本、服、釣り道具、ゴルフクラブ、自転車、フィギュア、レコード、楽器。そうした好きなものを手放して、きれいに片付いた何もない部屋で暮らす。それは本当に楽しいでしょうか。人生を楽しむために建てる家なら、好きなものに囲まれて暮らしたいものです。

整理整頓や断捨離が必要になるのは、収納が足りない家だからだと私は思っています。入れる場所がないから捨てる、細かく分類する、使ったら戻す。これはしんどいことです。巨大な収納があれば、そこに持っていけばいいだけです。

百年の家®︎プロジェクトでは、小屋裏に大きな収納をつくります。小屋裏も快適な温度なのでほこりもなく、趣味部屋にも、子どもが来たときの寝る場所にもなります。私はこれを「ブラックホール収納」と呼んでいます。60代から100歳まで生きるとして、40年間。ゴルフでも釣りでも、新しい趣味を増やし放題にするための収納です。

読者の不安に答える:60代の家づくりに関するQ&A

Q. 老後を考えるなら、やっぱり平屋のほうがいいですか?

足腰がすでに大変な方は平屋がいいと思います。ただ、元気な方なら、寝室を2階にして毎日の上下運動を暮らしに取り入れるのも一つの考え方です。そのうえで、いずれ階段が上れなくなったときのために、1階で全部できるようにしておくことが大切です。たとえば、リビングを広めにして、後からベッドを置けるスペースを確保しておく。部屋ではなく、スペースで考えるのがポイントです。「老後の寝室」と名前をつけた部屋は、使わない部屋になりやすいので、名前にも気をつけたいところです。

Q. 予算が限られるとき、どこにお金をかけるべきですか?

設備よりも、建物本体に使うことをおすすめしています。設備は壊れるので、交換は仕方がありません。でも、家の性能は交換できません。建物は死ぬまでいじらなくていい状態にしておく。これが、60代からの家づくりの基本です。

まとめ:最後まで最高に楽しく暮らす家づくりを

最後まで楽しく暮らす家

60代は、まだまだ人生の現役です。昔の60代や80代とは、元気さがまったく違います。だからこそ、「最後に住む家」ではなく、「最後まで最高に楽しく暮らす家」を建ててほしいと思っています。

手すりだらけにする必要はありませんし、何でも小さくする必要も、我慢する必要もありません。家事は楽にして、温度差をなくし、移動は足腰が弱らないよう上手に使う。そして、趣味も収納も、やりたいことはむしろ大きくしていい。

後から変えられない部分を、建てるときに間違えない。それが、アクティブなプラチナ世代の家づくりだと、私は考えています。

– 著者情報 –

杉浦 一広

百年の家®︎プロジェクト主宰。注文住宅マイスターとして、全国の工務店とともに「百年住み継げる家づくり」の基準づくりに取り組んでいます。